頭部への外的ストレス
脳震盪(のうしんとう)の影響は、その時だけではなく時間が経過してから徐々に影響が広がることがあるので注意が必要です。
慢性外傷性脳症という病態があります。慢性外傷性脳症(Chronic Traumatic Encephalopathy)比較的新しい病態です。
”比較的新しい” というのには理由があります。それは画像検査(CT) では問題が見つからなかったことが挙げられます。画像上異常がないけど同じ症状を訴える人が後を絶えない。そして、病理診断によってようやく異常が発見され、この病態について認知された経緯があります。つまり、認知される時期は近年ですが、ずいぶんと前から同じ原因で苦しむ人がいたことが推察できます。
この病態は複数回に渡り頭部に外力が加わることが原因とされています。抑うつ症状、認知症、をはじめとした中枢神経系の障害が起こることが指摘されています。主にボクシング、アメリカンフットボール、ラグビーなどの激しいコンタクトスポーツが発生要因として考えられています。
時間が経過して徐々に問題が表出することが多い
脳は頭蓋骨という入れ物の中でプカプカ浮かんでいるようなもの。頭へ強い衝撃が加わると、それが脳への強いストレスになることは容易に想像できます。
複数回ではなくても、頭部への強い衝撃は、時間経過とともに何らかの問題を呈する可能性があると感じています。
臨床でも、交通事故や転倒による影響が見受けられるケースに遭遇します。関節痛で来室された 50代の女性も過去の頭部への強いストレスが起因しているように見受けられました。
この方は高校生の時に運動会で転倒。短時間ですが意識を失った経験がありました。主訴は関節痛でしたが、問診で、腰痛(起床時)、パニック障害、難聴、めまい、眼振など、頭部に関係する諸症状にも悩まされていることが分かりました。
脳震盪後の徒手的ケアの前に・・・
オステオパシーでは、この脳震盪に対しても、いろいろな研究が行われています。
その 1つに、軽度の脳震盪に対してのオステオパシーの治療があります。
オステオパシーの治療は Glymphatic system (グリンファティック・システム)と呼ばれる脳独自のリンパシステムを促進させ炎症を抑えることが期待でき、且つ、費用対効果が高いツールで、さらに調査する必要がある。
と記されています。(PMID: 26927914)
臨床を通して感じることは、転倒後、症状が表出していなくても早めのケアで予防することの必要性です。
脳震盪を起こしても、その後、普通に生活できてしまうケースが多いので難しいところではありますが、急に光が眩しく感じる、記憶力が低下してきているなどの症状が現れたら、まずは医学的な異常がないか専門医を受診していただくことをお勧めします。(当治療室でも脳震盪のケアは行っていますが、頭部外傷の既往がある場合は必要に応じて医療機関を受診していただくことをお勧めしています)
詳しく知りたい方は映画で
この慢性外傷性脳症について、実話に基づいたウィル・スミス主演の『コンカッション(Concussion)』という映画があります。Concussion は「脳震盪」という意味なので、スレートなタイトルですね。
死体解剖(検視)が専門の医師。過去に NFL で活躍していたプレーヤーが自殺し、検視を担当することになったことから物語は新たな方向に進みます。
死者を尊重する姿勢や困難と向き合う生き方など、考えさせられることが多い作品でした。ご興味があれば是非ご覧になってみてください。