内臓の関連痛(いわゆる内臓痛放散)は内臓の疾患や異常から生じる痛みが内臓自体ではなく身体の他の部位に聞こえる現象です。これは内臓と体の表面の感覚が同じ神経経路を共有しているためです。内臓の関連痛は痛みの原因を特定する上で重要な手がかりとなりえます。この記事では内臓の関連痛のメカニズム、主な原因について解説します。

内臓の関連痛のメカニズム

内臓の関連痛は内臓からの痛みの信号が脳に伝達される際に同じ神経経路を通じて体の他の部位に痛みが生じることから生じます。例えば、心臓からの痛みの信号が左肩や腕に放散されることが時々あります。この現象は内臓と体の表面が同じ神経根を共有しているために起こります。

内臓の神経支配

内臓には自律神経系が関与しています。交感神経と副交感神経が内臓の機能を調整し、内臓からの痛みの信号は感覚神経を介して脊髄に伝達され脳に送られます。この過程で同じ神経経路を共有する体の他の部位に痛みが感じられます。

股関節痛に関連する内臓の問題

1. 腸疾患

大腸炎や過敏性腸症候群(IBS): 腸の炎症や過敏性腸症候群は下腹部から股関節周辺に痛みを引き起こすことがあります。これは腸と骨盤の神経が近接しているためです。

憩室炎: 大腸の憩室が炎症を起こすと、左下腹部から股関節にかけて痛みが放散することがあります。

2. 泌尿器系疾患

腎臓結石や尿路結石: 腎臓や尿路の結石が股関節痛を引き起こすことがあります。特に結石が尿管を通過するときに激しい痛みが生じ、これが腰から股関節にかけて感じられることがあります。

膀胱炎: 膀胱の炎症が骨盤周囲の痛みを引き起こし、それが股関節に関連することがあります。

3. 婦人科疾患

卵巣嚢胞や卵巣捻転: 卵巣の異常は骨盤内の痛みを引き起こし股関節周辺に放散することがあります。特に急性の痛みが生じる卵巣捻転は、股関節周囲の痛みとして感じられることがあります。

子宮内膜症: 子宮内膜症による骨盤内の炎症が股関節痛を引き起こすことがあります。

研究と論文からの知見

近年の研究では内臓からの関連痛が股関節痛の一因となる可能性があることが明らかにされています。

Baldry PE (2001) は、筋筋膜痛症候群と関連痛についての研究において、内臓の問題が筋肉や関節に痛みを引き起こすメカニズムについて説明しています。特に、骨盤内の内臓の問題が股関節痛と関連していることが示されています。

Hägg O, Fritzell P, Ekselius L, et al. (2003) の研究では、腰痛と股関節痛の関連性について調査され、内臓からの関連痛が腰部および股関節の痛みの原因として考慮されるべきであるとしています。

まとめ

股関節痛が必ずしも筋肉や骨の問題だけではないことを理解することは重要です。内臓からの関連痛が原因である可能性も考慮することで適切な診断と治療に繋がります。