PTSD・トラウマとは何か?
トラウマは心のケガです。精神的なストレスなど、目に見えない心の傷を一般的にトラウマと表現することが多いようです。
この心の傷(ケガ)は病院に行っても気づいてもらえません。近年は、心のケガ、トラウマについての研究も盛んに行われています。病院で検査しても異常が見つからない原因不明の不調、また、自己免疫疾患を始めとした慢性疾患など、このトラウマとの相関関係を指摘する報告が増えています。
とはいえ、精神的なストレス、例えば、怒りや悲しみなどの感情や情動の変化は誰にでもあるものです。この内的なストレスが身体に影響する時と、そうでない時がある理由。これについて、参考となる考え方が 『小児期トラウマがもたらす病 ACEの実態と対策』に書いてありましたので引用をします。
樽水理論
免疫システムを樽だとしよう。大人になってから、化学物質や添加物まみれの加工食品による大量の環境毒素、ウィルス、感染、慢性あるいは急性のストレス要因に接せると、樽は少しずついっぱいになる。やがて、そうしたものの一つが引き金となり、その最後の一滴で樽が溢れて発病する。
つまるところ、樽にゆとりがあるか、ゆとりがないかということです。例えば、樽に水が 1/3 の状態の Aさん、今にも樽から水が溢れ出しそうな Bさんを比較してみると、同じストレスでも、後者の方が発病のリスクが高くなるということになります。
- 小さい時に最愛の親を失ってしまった。
- 親から頻繁に怒鳴られ、時に暴力を振るわれた。
- 小児期に陰湿ないじめにあった。
など、その時の心身の状態で強いストレスに晒されることで、一瞬にして樽の水が溜まってしまい、場合によっては溢れさせてしまうことにもなるようにも思います。
こうして、積み重なっていった内的なストレスがトラウマとして、数年単位だけではなく、十年、二十年と経過しても傷跡として残り発病の引き金になることが指摘されています。
トラウマの構造と機能。脳のスイッチが切れない状態
近年は f-MRI という特殊画像装置で脳の状態が視覚的に分かるようになっています。トラウマを抱えている人の f-MRI 画像では、扁桃体、外側前頭前皮質、帯状回など、脳の特定領域で過活動または活動の低下が確認されています。
また、腰痛など長期に渡り持続する痛みを抱えている人の共通する特徴として、同様に脳の機能異常が報告され、注目されています。
なぜ、そのような状態になってしまうのでしょうか?
これに関しては、いろいろなケースが考えられますが、エビデンスを基にした臨床を通しての感覚として、迷走神経を中心とした脳の機能異常が関係していることが多いように思っています。
恐怖、悲しみなど、感情が揺れ動いた際に脳幹にある扁桃体が活性化します。この扁桃体は、その情報を更に脳の深い部分に信号を送ります。この信号が自律神経系に作用することで、緊張状態を作ります。この扁桃体が活性化した状態が持続することで、身体が常に緊張してしやすくなってしまいます。
恐怖や悲しみなどの衝動で脳のスイッチがオンになってしまい、本来はオフにならなければいけないところが、オフにできない。休んでいるつもりでも、身体は常に緊張状態が続くことになります。
そのような状態が持続すると、身体が炎症状態になってしまいます。結果、うつや統合失調症などの精神疾患、リウマチや甲状腺機能亢進・低下症などの自己免疫疾患など、難治性とされる病気の発病リスクがグンと高くなってしまうことが報告されています。
ポイントは脳神経の機能を取り戻すこと
一旦、脳のスイッチがオンになると、何をしてもオフにできないかといえば、そうでもありません。マインドフルネスと言われる瞑想法や眼球運動を使うアプローチ、腸内環境の改善など、多種多様な方法でオンになったままのスイッチをオフにする手法が見出されています。
そして、数あるアプローチ法の中で共通しているところが、「脳神経の機能を取り戻す」ところにあります。また、脳神経の中でも迷走神経と呼ばれる副交感神経系の神経が大きな役割を担っていることも分かっています。
近年、トラウマについて研究が進み、非科学的だったものが科学的に分かるようになっています。うつや統合失調症、自己免疫疾患、慢性痛など、なかなか改善しない症状の多くに、この脳神経の機能不全があると感じています。
身体に直接触れてアプローチする徒手的な方法は認知されていませんが、脳神経や自律神経に着目してアプローチできるオステオパシーにはトラウマケアの可能性を秘めていると感じています。
お困りの際は遠慮なくご相談いただければと思います。