ポリヴェーガル理論は自律神経の見方を変えた新しい概念です。コロナ禍以前にこの理論を知りました。そしてコロナウィルスで世の中が混沌としている渦中で時間を持て余していたのをキッカケに関連書籍を手に取り理解を深めていました。
3系統の自律神経
自律神経は交感神経と副交感神経に分かれていて交感神経系は興奮、副交感神経系はリラックスさせる働きがある。というのが一般的な理解だと思います。
「ポリ・ヴェーガル」という言葉は「複数の・迷走神経」という意味があります。副交感神経系の80%近く占める迷走神経には2種類あり構造も機能も異なるというのが特長です。そして一般的に伝わる交感神経と副交感神経の2系統ではなく、実は自律神経は3系統の働きがあるよ、というところが立脚点になります。
自律神経系のアクセルとブレーキ
交感神経系の活動が優位になると血管が収縮、心拍数の上昇、呼吸が促進されるなど、身体の中で変化が起きます。身体がアクセルを踏んでいる状態です。
これだけ見ると交感神経のイメージがあまり良く見えないかも知れません。しかしながら、怪我で出血をした時に血液凝固反応が起こり出血を抑制することもあるので交感神経も身体にとって必要なものであることが分かります。
ここで問題になってくるのが一定の条件下において身体がアクセルを踏みっぱなしの状態になってしまうことです。ブレーキが効かない状態で交感神経系が活動することで痛みや内臓の不調、不眠、ホルモン異常など、いろいろな症状が表出してきます。
本来、人の身体はアクセル全開になってしまわないように適切にブレーキを踏みスピード調整する必要があります。そのブレーキの役割が迷走神経の1つの機能的側面でもあります。
急に歩けなくなった80代の女性
80代の女性が娘さんに連れられて来室されました。数週間前にはグラウンドゴルフをされていたそうですが急に膝が痛くて歩けなくなったとのこと。
整形外科では変形性膝関節症との診断でヒアルロン酸の注射による治療が行われていました。しかし一向に良くならなく近所の整形外科にもタクシーで行くような状態になってしまったそうです。
整形外科では骨の変形を指標にします。そして整骨院では筋肉を指標にします(することが多いです)。自律神経という側面で身体の中の変化を見ると、また違った角度からアプローチすることができます。
このような状態では身体のブレーキが効かずアクセルが踏みっぱなしになっていることが多いです。痛みがアクセルを更に踏み、ブレーキが効かないのですから更に悪循環に・・・という感じでしょうか。
この方は今は普通の生活に戻っています。施術では検査以外で膝に触れることはしていません。こういうことは珍しいことではなくアクセルとブレーキのバランスがおかしくなっている場合、そこを修正することが解決の糸口になることが多いと感じています。
「心」と「身体」の繋がりを理解する
ポリヴェーガル理論は欧米ではトラウマ治療の専門家によって臨床応用され広く知れ渡ったようです。日本で書籍が邦訳されたのが2018年です。そこから4年近く経過しましたが私のような仕事をしている人でも「名前は聞いたことはあるけど」という感じだと思います。
ポリヴェーガル理論は非常に学術的な理論でもあるので関連書籍も骨太なものが多いです。自身も何度も関連書籍に目を通して、挫折して、目を通してを繰り返し、臨床に落とし込むことでようやく理解が深まり始めました。
この理論は人間性の「全体性」を理解するのに役立ちます。「心」と「身体」が切り離されたものではなく、自律神経系を通して全体として機能していることが理解できます。
現代医学ではパーツに分けて診断・治療するのである意味対極にある理論かも知れません。ただ、オステオパシーでも「全体」を重視していますし、何より解剖学的に理論のバックグラウンドを論理的に説明しているので親和性が高いと感じ取り入れています。